- 特許庁のIP BASEは、契約書に特段の記載がなければ、ベンダは自らが生成した学習用データセットを依頼者に提供する義務はないでしょう、と述べています。アノテーションデータ自体がベンダのノウハウを構成することも少なくない、とも書いています。
- 依頼者が学習用データセットの引渡しを受けたいときは、成果物に含めて引渡しの対象としたうえで、利用条件を個別に議論することになるでしょう、とされています。個人データを渡す場合は、委託の目的や委託元の利用目的を超えた利用ができない点に注意が必要です。
- 作業単価、品質の基準値、納期の目安は、公的な資料に見つからなかったため、このサイトでは載せません。
学習用データセットの扱い(IP BASE)
特許庁のスタートアップ向けサイトの、弁護士・弁理士による解説記事(FY2021)の記述です。AIソフトウェアの開発の委託を前提にした解説で、データ整備の外注にそのまま当てはまるかは、このサイトでは判断しません。
一般的には、契約書に特段の記載がない限り、ベンダは、自らが生成した学習用データセットをユーザに対して提供する義務はないでしょう。
特許庁 IP BASE「学習用データセット(訓練用データセット)を巡る契約」(FY2021)
特に、生データに対するアノテーション作業に多くの手間と時間が必要となる場合、ベンダはこれを効率的に実施すべく独自の工夫を行うため、アノテーションデータ自体がベンダのノウハウを構成することも少なくありません。
(同じ出典)
しかし、ユーザからすると学習用データセットは自社の生データがなければ生成することはできず、それをベンダが自由に利用できることは適切ではないと考えることもあり得るでしょう。
(同じ出典)
このようなケースでは、学習用データセットを成果物に含めて引渡しの対象としたうえで、その利用条件を個別に議論することになるでしょう。
(同じ出典)
なお、学習用データセットの取扱いを議論する際には、その元データ(生データ)の取扱いとの整合性をよく検討する必要があります。
(同じ出典)
出典: 特許庁 IP BASE「学習用データセット(訓練用データセット)を巡る契約」(FY2021)(確認日 2026-10-24)。
個人データを渡して委託する場合(IP BASE)
ベンダがユーザから個人データの取り扱いの「委託」を受ける場合には、第三者に対する提供にあたらず、これらの義務は課せられません。
特許庁 IP BASE「個人情報を含む場合のAIソフトウェアの開発の留意点」
委託による場合には、委託の目的や委託元の利用目的を超えた利用ができないことや、受領した個人データをベンダが有する他の個人に関するデータと突合をすることはできないことに注意が必要です。
(同じ出典)
経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月、AI関連サービスの利用を前提にした文書)にも、同じ趣旨の記述があります。データ整備の外注にそのまま当てはまるかは、このサイトでは判断しません。
他方、例えば、ベンダに対する個人データの「提供」が、利用者の利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いを「委託」すること(個情法27条5項1号)に伴って行われる場合には、当該「提供」についてあらかじめ本人の同意を得る必要はない。
経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月) 4.4.1(33頁)
秘密保持契約等においてこのような例外規定が存在しない場合には、インプットの提供が契約違反を構成し得る点に留意が必要である。
経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月) 脚注10(秘密保持契約の注意)
チェックリストでは、あくまでも契約との関係で重要と思われる規律を記載しているにすぎず、個人情報保護法上遵守が必要な規律の全てを定めているものではないため、留意されたい。
経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月) 脚注15
個人データの取扱いの委託で、発注側が負う監督の義務は発注側の義務のページに、再委託は再委託のページにあります。出典: 特許庁 IP BASE「個人情報を含む場合のAIソフトウェアの開発の留意点」(確認日 2026-10-24)。
AI事業者ガイドラインの記述(概要)
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は、AI開発者・AI提供者・AI利用者の取組を整理した文書で、データ整備を請け負う事業者を直接の対象にした文書ではありません(概要は「データ提供者」「業務外利用者」を対象外としています)。概要には、アノテーションやラベリングに触れた次の記述があります。
AIシステムの開発過程、意思決定に影響を与えるデータ収集及びラベリング、使用されたアルゴリズム等について文書化する
総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要」(令和8年3月31日) AI開発者の指針 D-7) ii.(開発関連情報の文書化)
活用している範囲、データ収集及びアノテーションの手法、AIシステム・サービスの能力、限界、提供先における適切/不適切な利用方法、等
総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要」(令和8年3月31日) 各主体が取り組む事項 6) 透明性
これらは、AIを開発・提供する側が、データ収集やアノテーションの手法を文書化・説明するという趣旨の記述です。発注側が整備事業者に何を求めるかは、契約で決めることになります。概要だけを読んでおり、本編と別添の本文は読んでいません。
契約で決める観点の整理
上の記述から、契約で決めておく観点を並べます。これは基準ではなく、決め漏れを見つけるための観点で、数値や相場は載せていません。
| 観点 | 根拠となる記述 |
|---|---|
| アノテーション済みデータを引き渡すか | 契約書に特段の記載がなければ、ベンダに提供の義務はない(IP BASE)。引渡しを受けるなら、成果物に含めて引渡しの対象にする |
| 引渡しを受けた後の利用条件 | 学習用データセットを成果物に含める場合、その利用条件を個別に議論する(IP BASE) |
| 元データとの整合 | 元データ(生データ)の取扱いとの整合をよく検討する(IP BASE)。元データは第三者提供禁止で学習用データセットは提供可能とする契約では、データセットが提供可能か明確でない、という例が挙がっている |
| 派生データの利用権限 | 契約書で派生データを定義し、利用権限の有無を明らかにしておくことが望ましい(契約ガイドライン(データ編)) |
| 個人データの利用範囲 | 委託の目的・委託元の利用目的を超えて使えない。受託者が持つ他のデータとの突合もできない(IP BASE) |
このページで確認していないこと
個別の契約でどう決めるべきかは、このサイトでは判断しません。契約書や仕様書の作成、事業者の紹介もしません。
- アノテーションの作業単価、品質基準(一致率など)、納期の目安は、公的な資料に見つからなかったため載せていません。
- 経済産業省のAI契約チェックリスト(44頁)は、個人データの提供の節(4.4.1)と関連する脚注だけを載せています。インプットの学習利用、開発型、セキュリティなどの節は読んでいません。
- IP BASEの記事は2021〜2022年度の解説で、その後の変更は確認していません。法令の拘束力を持つ文書ではありません。